| 代表メッセージ

荻原 陽平(おぎわら ようへい)
岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 物質化学コース 准教授
国立研究開発法人科学技術振興機構 さきがけ研究者
博士(理学)。日本学術振興会 特別研究員(DC2)、東京理科大学 理工学部 助教および講師、東京都立大学 大学院理学研究科 特任准教授を経て、2024年4月より岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 物質化学コース 准教授。科研費助成事業 学術変革領域研究(B)「単体硫黄活性化の体系化と開拓に基づいた統合的精密合成化学(硫黄精密変換)」領域代表。2023年10月より国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者を兼務。専門は有機合成化学・有機金属化学。
「余剰資源」である単体硫黄を使い切り、次世代の材料創出と全元素活性化の未来へ
みなさま、「硫黄精密活性化」の世界へようこそ。本領域の代表を務めます、岐阜大学の荻原陽平と申します。
「主役の陰に隠れた資源」硫黄の現状と課題
単体硫黄(S8)は、8個の硫黄原子が環状に連なった物質で、非常に安定な固体であり、皆様が想像するような嫌な臭いもありません。実はこの硫黄、石油を精製する過程で副生物として大量に生み出されており、世界で年間7,000万 トン、国内だけでも150万トンが生産されています。
しかし、この莫大な生産量は硫黄自身の需要によるものではなく、あくまで「主役である石油」の生産量に依存しています。そのため、資源の乏しい我が国において、硫黄は極めて稀な「大量に余っている資源(余剰資源)」となっているのが現状です。
これまでにも硫黄を用いた分子や物質の変換手法は数多く開発されてきましたが、多くの場合、硫黄は「単なる反応原料のひとつ」としてしか扱われてきませんでした。反応の起点となる「硫黄をどのように活性化(結合を切り離し、再構築)させるか」という本質的な理解は、化学の各分野でバラバラに発展しており、世界的に見ても分野を横断した体系化はなされていませんでした。

6人の若手研究者による異分野融合の挑戦
本領域では、この安価で安定な余剰硫黄を、自由自在に高価値な物質へと変換する「普遍的な合成化学」の開拓に挑みます。
その鍵となるのが、「硫黄活性化マップ」の構築です。
本領域には、「有機化学」「電気化学」「高分子化学」「錯体化学」「無機化学」という異なる専門分野を持つ30〜40代の若手化学者5名が集結しました。私たちがそれぞれ得意とする多彩な活性化技術(触媒、電気、塩基、光、メカノケミカル)を持ち寄り、反応のパラメーター(効率やエネルギーなど)を多次元的に解析して「マップ」として体系化します。
これまでの専門分野の壁を越え、互いの技術や課題を共有・理解することで、単一の手法では決して成し得なかった革新的なハイブリッド反応や、新たな含硫黄物質(次世代二次電池材料、医農薬、自己修復材料、環境浄化触媒など)の精密合成を実現します。


「全元素活性化」という究極の夢に向けて
私たちの取り組みは、単に新しい化学反応を見つけるだけにとどまりません。石油依存社会と本質的に連動している余剰硫黄を「使い切る」という視点は、これからの脱炭素社会に向けた新たな資源戦略と環境対策に直結します
さらに、本領域で確立する「異分野の知見を統合して元素を活性化する」という方法論は、硫黄以外の元素にも応用可能です。私たちはこのプロジェクトを第一歩として、長期的には周期表のすべての元素を自在に操る「全元素活性化」という究極の目標を見据えています。
次代の化学を切り拓く精鋭集団として、未踏の「硫黄精密変換学理」の確立に向けて全力で取り組んでまいります。本領域の活動へのご支援とご期待を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
学術変革領域研究(B)「硫黄精密活性化」
領域代表 荻原 陽平(岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 物質化学コース 准教授)